第33章 阿部蓮太郎の過去

阿部蓮太郎の名が出た途端、有岡里穂は一瞬だけ言葉を止め、それから小さく頷いた。

「うん。阿部さんは……いい人だよ」

自分がただの高校生だと分かっていながら、それでも一度はチャンスをくれた。そういうのは、たぶん「いい人」って言うんだろう。

それを聞いたおばあちゃんは、ぷっと吹き出した。

「『いい人』って言うの、あんたが初めてだわ」

そう言うと、おばあちゃんは手をひらりと振る。有岡里穂は合図を察して、すぐに車椅子を押し出した。

車椅子はゆっくり病棟を出る。外には青々とした芝生が広がり、通路には家族に付き添われた患者がちらほらと休んでいた。

感染が怖い。有岡里穂は少し離れた木陰まで車...

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